2023.3.25
2023年3月24日午前11時、青森地方裁判所第2民事部(鈴木義和裁判長)は、保護費の減額処分の取消しを命じる原告勝訴判決を言い渡しました。
そして、同じ2023年3月24日の午後2時、今度は和歌山地方裁判所民事部(髙橋綾子裁判長)が、同様に保護費の減額処分の取消しを命じる原告勝訴判決を言い渡しました。
全国的な集団訴訟とはいえ、同じ日に勝訴判決が相次ぐというのは極めて異例のことです。
このW勝訴判決は、これまでに言い渡された16の判決のうち、2021年2月22日の大阪地裁判決、2022年5月25日の熊本地裁判決、同年6月24日の東京地裁判決、同年10月19日の横浜地裁判決、2023年2月10日の宮崎地裁判決に次ぐ、6例目、7例目の勝訴判決となります。
青森地裁判決は、専門家の審議会等による検討を経ずに「デフレ調整(物価考慮)」を行ったことについて、高度の専門技術的な考察を経て合理的に行われたことにつき被告らにおいて十分な説明をする必要があるとしたうえで、①特異な物価上昇が起こった平成20年を起点としたこと、②「生活扶助相当CPI」においては、テレビ、パソコン等のウエイトがむしろ一般世帯より大きく評価され、生活保護世帯の消費構造と大きく乖離していたこと、③基準部会が検証した「ゆがみ調整」に併せて「デフレ調整」を行ったことについて、いずれも十分な説明がなされていないとして、厚生労働大臣の判断過程に過誤、欠落があると判断しました。
また、和歌山地裁判決は、「デフレ調整」について、内容面では、①生活扶助相当CPIの考案過程や起点を平成20年とする検討過程が明らかでない点、②(総務省が採用しているラスパイレス指数による)新旧指数の接続もされていない点、③水準均衡方式が採用され続け、基準部会において物価考慮について複数の異論が出された中、物価変動を考慮した点が、「統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠く」としたうえで、基準部会に諮らなかった点において手続的にも生活扶助基準改定の過程及び手続に欠落があるとしました。
さらに、「ゆがみ調整」の数値を一律2分の1にしたことについても、基準部会の検証結果による効果が2分の1にとどめられることになり専門的知見との整合性がないとしました。2分の1処理の違法性を認めたのは熊本地裁判決に続く2例目です。
青森地裁判決後にもたれた記者会見で、葛西聡弁護士は、「ようやく裁判所が、行政に対して法に基づいてチェックするという司法の役割をきちんと果たしつつある」と話しました。
また、原告の神覚さんは、「勝利は確かにうれしいが、今現在生活するのが大変。だから、できるだけ早く結論を出してもらいたい」と話しました。
和歌山地裁判決後にもたれた報告集会で、芝野友樹弁護士は、「引下げの取消しについては全面的勝訴と言っていい。うれしさをわかちあいたい」と話しました。
また、原告の中山福二さんは、「生きててよかったなと思った。この日を迎えるまでに提訴から8年5か月。国は裁判をもうやめて、ちゃんと償ってほしい」と話しました。
基準引下げから10年、提訴からも長い年月が経ち、被害を早く回復してほしいという原告の願いは当然であり切実です。
両地裁の原告団、弁護団は、いのちのとりで裁判全国アクションとともに、3月30日、厚生労働省に要請行動を行う予定です。
■青森地裁
■和歌山地裁