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争訟ネット(全国弁護団)が「いのちのとりで裁判・最高裁第三小法廷判決の読み方~被害回復策の策定や今後の基準改定に活かすために~」を公表しました

2025.7.7

“争訟ネット(全国弁護団)が「いのちのとりで裁判・最高裁第三小法廷判決の読み方~被害回復策の策定や今後の基準改定に活かすために~」を公表しました|いのちのとりで裁判全国アクション

2025年7月7日

いのちのとりで裁判・最高裁第三小法廷判決の読み方
~被害回復策の策定や今後の基準改定に活かすために~

生活保護基準引下げにNO!全国争訟ネット
(いのちのとりで裁判全国弁護団)

2025年6月27日15時、最高裁判所第三小法廷で宇賀克也裁判長が判決を言い渡しました。

裁判官全員が一致してデフレ調整の違法性を認め、生活扶助基準引き下げ処分の取消しを命じるという前代未聞の画期的判断でした。

本判決には、宇賀克也裁判長の詳細な反対意見と林道晴裁判官の補足意見があり、本判決は、これらの個別意見も合わせて理解する必要があります。特に、宇賀裁判長の個別意見は、ゆがみ調整の2分の1処理を違法とし、国家賠償請求を認容すべきとする点では、多数意見と意見を異にする反対意見ではありますが、デフレ調整の違法の判断は、多数意見と一致するものであり、補足意見に位置づけられるべきものです。

以下、詳しく説明する「本判決の読み方」は、これから本格化する被害回復策の策定や2027年度の生活扶助基準見直しに向けた生活保護基準部会での検証においても十二分に尊重され活かされる必要があります。

「判断枠組み」について

本判決は、生活扶助基準を改定するに当たり、厚生労働大臣は「専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権」を有しており、その判断に「上記見地からの裁量権の逸脱又はその濫用がある場合に、生活保護法3条、8条2項に違反して違法となる」としたうえで、その「裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として本件改定に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべき」として、老齢加算廃止訴訟の2つの最高裁判決を引用し、同判決が示した「判断過程審査」による判断枠組みを採用しました(大阪訴訟9~10頁、愛知訴訟10~11頁)。

国側は、訴訟終盤になって、昭和42年5月24日の朝日訴訟最高裁判決が本件の先例であり、「現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定するなど憲法及び生活保護法の趣旨、目的に反することが明らかな場合に限り違法となる」と、それまでの主張を一転させていましたが、本判決は、この主張には言及することさえせず排斥したのです。

また、本判決は、「生活扶助基準の改定の際にどのような指標を用いるかについても、同(厚生労働)大臣の裁量判断に委ねられている」としつつも、「生活保護法8条2項は、保護基準は、保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすものとすべき旨を規定している」ことを指摘し、「ここにいう『最低限度の生活の需要を満たす』とは、生活扶助については、最低限度の消費水準を保障することを意味するものとして理解されてきた」として、これまでの「経緯」との整合性、首尾一貫性を重視する視点を示した上で(大阪訴訟12頁、愛知訴訟13頁)、後に述べる「デフレ調整」の違法性判断を導いています。

すなわち、「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無」が問われ、専門家からの意見の聴取等が必要とされるのは、生活保護法8条2項によって要保護者の必要な事情を考慮する義務が課されているからなのです。単に専門家による審議等を経ればよいのではなく、専門家による審議等であっても要保護者の必要な事情という事実を判断する際に過誤や欠落があってはならないのです。私たちは方針撤回を求めていますが万一仮に本件判決を受けて専門家による審議が行われることになったとしても、このことを忘れてはなりません。

 

この点、宇賀裁判長は、個別意見で、「国民感情、財政事情、与党の政権公約という生活保護法8条2項で例示されていない事項」が「政策的裁量として考慮事項になり得るとしても、生活保護法8条2項は、『最低限度の生活の需要を満たすのに十分なもの』である保護基準の策定を厚生労働大臣に義務付けているのであるから」、保護基準の改定に当たっては、「まずは、専門技術的判断の部分について判断過程審査を行い、その部分で判断過程の過誤、欠落が認められれば、政策的判断の部分の適法性に立ち入るまでもなく(略)違法となる」(大阪訴訟18~19頁)と、事実に関する「専門技術的判断」と「政策的判断」を分節し、前者に対する同条同項による制約を明確にしています。

また宇賀裁判長は、社会権規約2条1項等についても、「国は、その引下げがやむを得ないことについての説得力ある説明を行う必要があるという解釈を基礎付けるもの」としました(大阪訴訟19頁)。そして、デフレ調整に関する箇所でも、生活保護法8条2項を引用し、「厚生労働大臣が被保護者に対する給付額を引き下げる方向で保護基準を改定するためには、『最低限度の需要』が縮小したことが要件になり、その要件を満たすことを被上告人ら(国)が立証する必要がある」としました(大阪訴訟22頁)。

さらに、宇賀裁判長は、個別意見で、「ゆがみ調整の2分の1処理及びデフレ調整について外部有識者による専門機関の関与がない本件の場合には、厚生労働省内部において、いかなる資料に基づき、いかなる判断過程を経て、そのような処理がされたのかについて、(略)統計等の客観的な数値との合理的関連性や専門的知見との整合性等について主張立証する必要が生ずることになり、判断過程審査においては、この点について十分な審査が行われる必要がある」としました(大阪訴訟19頁)。

これらの判断は、一連の訴訟の潮目を大きく変えた令和4年6月24日東京地裁判決(清水知恵子裁判長)の判断を敷衍したものと言えます。

また、林裁判官も、補足意見で、「保護基準の改定の内容が統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるものであってはならないことは当然である」と厳しく指摘しているところです。

「デフレ調整」について

本判決は、昭和58年意見具申や平成25年報告書等における指摘をふまえて、「物価変動率は、生活扶助基準の改定の際の指標の一つとして勘案することが直ちに許容されないものとはいえないとしても、それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標」であることを指摘した上で、デフレ調整に当たって、「物価変動率のみを直接の指標として用いることについて、基準部会等による審議検討が経られていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない」ことから、本件改定が生活保護法3条、8条2項に違反し違法であるとしました(大阪訴訟・愛知訴訟13~15頁)。そして、その点に対する評価は、本件改定後に行われた平成29年検証の結果によっても左右されることはないとしました(大阪訴訟・愛知訴訟15頁)。

この点、宇賀裁判長は、個別意見で、多くの下級審判決がデフレ調整の違法性の根拠とした「生活扶助相当CPI」の算定方法の問題点(①教養娯楽用耐久財(テレビ、ビデオレコーダー、パソコン等)の物価の大幅な下落の影響が増幅されていること、②特異な物価上昇があった平成20年を物価変動率の起算点としたことなど)については国家賠償請求の項目で述べ(大阪訴訟25~26頁)、デフレ調整は、こうした点について「検討するまでもなく(略)違法」としています(大阪訴訟24頁)。先に述べたとおり、宇賀裁判長のデフレ調整に関する意見は、反対意見ではなく補足意見であるため、多数意見がこれらの違法要素を否定しているわけではありません。林裁判官が補足意見で、「保護基準の改定の内容が統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるものであってはならない」と指摘していることは、先に述べたとおりです。

また、宇賀裁判長は、個別意見で、国側が一般低所得世帯(下から10%の第1・十分位層)の消費水準の低下傾向を根拠に「消費を基礎とすると減額幅がより大きくなったと想定される」と訴訟の終盤になって主張していた点については、「被上告人ら(国)自身が、『最低限度の生活』は『一般国民』の生活水準との相関関係で捉えられるべきと強調していることと符合しない」こと、「現在も用いられている水準均衡方式の下では、一般国民の生活水準との比較を行っており、一般低所得世帯の消費水準との比較を行っているわけではない」ことを根拠に一蹴しています(大阪訴訟22~23頁)。これは、「水準均衡方式は政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びに準拠し、一般国民(平均的世帯)の消費水準の6割以上の水準を維持しようとするものであって、下位10%の低所得世帯の消費水準に機械的に合わせるものではない」という原告側の主張を採用したものといえます。2027年度の生活扶助基準改定に向けて再開されたばかりの現在の生活保護基準部会での検証にあたっても、安易に下位10%の低所得世帯の消費水準に合わせるようなことがあってはなりません。

なお、宇賀裁判長は、個別意見で、「ゆがみ調整とデフレ調整の併用」についても違法性を認めています(大阪訴訟24頁)。

「ゆがみ調整の2分の1処理」について

多数意見は、「2分の1処理を含むゆがみ調整に係る厚生労働大臣の判断に、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるということはできない」とし、違法性を認めませんでした(大阪訴訟10~11頁、愛知訴訟11~12頁)。

しかし、宇賀裁判長は、個別意見で、①2分の1処理の必要性と根拠について、基準部会にも国民にも秘匿する必要があったのかについて説得力ある説明がなされていないこと、②ゆがみ調整の結果、生活扶助を増額される者にとって、2分の1処理は激変緩和とはいえず不利益な措置であること、③激変緩和措置であれば減額世帯のみを対象とすればよいことなど「2分の1処理が行われた過程が、極めて疑問の残るものであることに鑑み」、判断過程に過誤があると違法性を認めました(大阪訴訟19~21頁)。

林裁判官も、補足意見で、①2分の1処理についても基準部会の意見を聴取し、その結果を平成25年報告書に反映することは可能であったとも考えられ、そのような手続を経る方が、生活保護行政の在り方として、より丁寧であったとし、②2分の1処理が一般国民に知らされていなかったという問題もあり、「今後は、被保護者のみならず、国民一般の理解も得られるよう、丁寧な手続による検討が進められ、その結果について意を尽くした説明がされることを期待したい」と厳しい注文をつけています(大阪訴訟17~18頁)。

「国家賠償」について

多数意見は、「厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とデフレ調整に係る判断をしたと認め得るような事情があったとまでは認められず」、国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとしました(大阪訴訟15~16頁、愛知訴訟16~17頁)。

しかし、宇賀裁判長は、個別意見で、既に述べたような本件改定の多くの問題点に加え、「激変緩和措置として減額幅の上限を10%に設定した」ことも、「被保護者の期待的利益に可及的に配慮するという観点からも裁量権の逸脱・濫用と判断される可能性は否めない」、「被保護世帯の消費実態が生活扶助相当CPIと異なることは、統計等の客観的数値に真摯に向き合い、専門的知見に基づいて冷静に分析すれば探知できたはずである」、「平成20年を物価下落率算定の起算点とすれば、同年の特異な物価上昇が織り込まれて物価の下落率が大きくなることは、本件改定が始まった平成25年には明らかであった」などとして、「本件改定は、違法であり少なくとも過失も認められる」と、原審の名古屋高裁判決と同様、「故意」による違法行為である疑いすら示唆しています(大阪訴訟26~27頁)。

そして、ここでも生活保護法8条2項が、「『最低限度の生活の需要を満たすに十分なもの』となるように保護基準を定めることを厚生労働大臣に義務付けて」いることを指摘したうえで、「上告人ら(生活保護利用者)が『最低限度の生活の需要を満たす』ことができない状態を9年以上にわたり強いられてきたとすれば、財産的損害が賠償されれば足りるから精神的損害は慰謝する必要はないとはいえ」ないとして、国家賠償請求を認容すべきとの判断を示しました(大阪訴訟24~27頁)。

まとめ

以上見て来たとおり、本判決は、裁判官全員一致でデフレ調整の違法性を厳しく指摘し、処分の取消しを命じるものであるだけでなく、元東京大学法学部教授で行政法の第一人者である宇賀克也裁判長が、生活保護法8条2項の正当な解釈を示した上、すべての論点において国の姿勢を厳しく批判する詳細で説得力のある判断を示している点に大きな意義があります。また、裁判官出身の林裁判官も、「保護基準の改定の内容が統計等の客観的数値との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるものであってはならないことは当然」とした上で、「被保護者のみならず、国民一般の理解も得られるよう、丁寧な手続による検討が進められ、その結果について意を尽くした説明がされること」を求めています。

これらの点は、新たな紛争の再燃や全面解決の長期化を避けるためにも、これから本格化する被害回復策の策定や2027年度の生活扶助基準見直しに向けた生活保護基準部会での検証においても十二分に尊重され活かされる必要があります。


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