2025.7.2
2025(令和7)年7月2日
厚生労働大臣 福岡資麿殿
いのちのとりで裁判大阪訴訟・愛知訴訟 原告団・弁護団
いのちのとりで裁判全国アクション
生活保護引き下げにNO!全国争訟ネット(全国弁護団)
本年6月27日、最高裁判所第三小法廷(宇賀克也裁判長)は、2013年からの史上最大の生活扶助基準引き下げ処分の違法性を認め、処分の取消しを命じる歴史的な判決を言い渡しました。
私たちは、判決を踏まえ、同日中に貴省保護課課長補佐に対し、①生活保護利用者に対する真摯な謝罪、②2013年改定前基準との差額保護費の遡及支給、③関連する諸制度への影響調査と被害回復、④検証委員会の設置による事実経過と原因の調査・解明等を求める貴職宛ての「要請書」を提出し、同月30日に予定されていた交渉では課長級以上の担当者出席のうえで真摯な回答を行うよう求めました。
ところが、同月30日の交渉では、貴省企画官が臨席し、「判決の趣旨、内容を十分精査し適切に対応したい」と繰り返すのみでした。私たちは、10年以上にわたる違法行為が最高裁によって断罪された以上、先ずは謝罪したうえで速やかに全面解決に向けた協議を行うよう求めましたが、企画官は、「謝罪するかどうかも含めて検討する」として謝罪しない可能性さえ示唆し、出席した原告らの失望と怒りを招きました。私たちが、次回の交渉では課長級以上の担当者出席のうえで中身のある回答を誠意をもって示すよう求めたところ、企画官は、持ち帰って検討する旨回答しました。
しかるに、2025年7月1日、貴職は、閣議後の記者会見において、「判決の趣旨及び内容を踏まえた対応の在り方について、早期に、専門家によりご審議いただく場を設けるべく検討をすすめて」いくとの方針を突然表明しました。
こうした方針表明は、私たちに事前に知らされておらず、全くの“寝耳に水”でした。最高裁により基準設定が違法であると断罪された貴職が、その訴訟の勝者である私たちに謝罪も行わず、その意見を聴くこともなく、突然、既定事実であるかのように記者会見の場で方針表明することは、交渉の前提となる信頼関係を蔑ろにするものであり、生活保護利用者を対等な交渉相手とは認めないと言わんばかりの差別的な姿勢であると言わざるを得ません。
訴訟において国側は大臣の裁量権は広範だと主張し続けましたが、最高裁判決は、大臣の権限が、生活保護法8条2項所定の「保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすものとすべき」義務によって制限されていることを明記した上で基準改定を違法と断じたのです。
にもかかわらず、厚生労働行政のトップが違法性に関する自らの認識を明言することを避け続けている状況は、司法軽視も甚だしく、法治国家としての基盤を揺るがすものです。
最高裁における違法判断が確定している以上、今さら「専門家」を集めて「審議」させる必要など全くなく、仮に、当該「審議会」において政府の意に従う「専門家」が集められ、「専門性」の名の下、再び、当事者の意向を無視し、最高裁判決の意義を矮小化するような「対応策」を示すようなことがあれば、私たちは到底これを容認できず、新たな紛争を招くことになり早期全面解決が遠のきかねません。
したがって、私たちは、貴職による一方的な「専門家」審議会設置方針の表明に対し厳重に抗議するとともに、当該方針をすみやかに撤回し、先ずは長年の違法行為を真摯に反省し、被害者である生活保護利用者らに謝罪し、被害の全面回復を速やかに行うよう、改めて強く求めるものです。