意外に単純なカラクリです。総務省統計局が算出している消費者物価指数(CPI)と生活扶助相当CPIの関係をまず整理しましょう。
物価指数を計算するときに必要なのは、対象の各品目の支出額割合(ウエイト)と価格の変化率。こうしたデータは総務省統計局のCPI統計のサイト( http://www.stat.go.jp/data/cpi/ )に掲載されており、厚労省は生活扶助相当CPIの計算をするとき、このサイト内のデータを使いました。
生活扶助相当CPIは、外形的にも統計局が担当する消費者物価指数(CPI)の仲間に見えます。CPIの仲間には、一部の品目を除いて計算するCPIがいくつもあります。よく知られているのは、値動きの激しい生鮮食品の品目を除いた「生鮮食品を除く総合指数」です。
生活扶助相当CPIは、CPI統計のすべての品目の中から生活扶助費では買わない品目を除いて計算しています。家賃や医療費、自動車購入費などが除外品目です。生活扶助相当CPIも「生活扶助費で買わない品目を除く総合指数」という内容です。
それならなぜ、生活扶助相当CPIの計算では下落率が異様に大きくなったのか。
ポイントは、厚労省が通常の計算方式ではない特異な計算方式をこっそり使ったことです。厚労省社会援護局保護課とコンサルタントの三菱総研のチームが、CPI統計の本家である総務省統計局やCPIに詳しい学者・エコノミストらの意見も聞かず、独自方式で計算したのです。
2010年〜2011年は通常のラスパイレス方式で計算しましたが、2008年〜2010年は、普段はまったく使われないパーシェ方式を実質的に使った形になっています。
厚労省の計算には、もうひとつ重大な問題があります。計算で使う各品目の支出額割合(ウエイト)を、CPI統計のサイトに記載されている数字にしたことです。
CPI統計の支出額割合は、統計局が実施している家計調査に基づいて設定されています。そして家計調査は、一般世帯の平均の数字が出てくるように作られています。
このため、厚労省が計算した生活扶助相当CPIは「生活扶助費で買う品目群についての平均的一般世帯の物価」ということになるのです。生活保護世帯の現実の貧しい暮らしぶりを反映していません。
ふたつの問題点によって、生活保護利用者に残酷な結果が出ました。
2008年〜2011年の生活扶助相当CPIの下落率4.78%の大半は、テレビやパソコンなどの電気製品の影響によるものです。2008年〜2010年の計算が実質的にパーシェ方式になっていることで、電気製品の影響が異様に膨らみました。
生活保護世帯は貧しいので電気製品への支出額割合は低いのですが、厚労省は一般世帯並みの暮らしという前提で生活扶助相当CPIを計算してしまいました。
「電気製品の影響が大きく出た厚労省の計算はあまりに理不尽」。こういった怒りの声が生活保護利用者の間で噴出し始めているのは当然です。